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【長編】他人の女はよく見える その1

「なあっ! 彼氏と比べてみろ!」

「どっちが!どっちがいいんだ?  なあ」

少し電気を落とした部屋で男女が交わっていた。

男が叫びながら、互いに股が交差するところをずこずこと突く。


「やっ… ぁぁっ……」

「ぁぁ……」

「はぁっ...!」


女は、下半身を中心に、じわぁっと快感が広がっていて、やがてそれが頂点に達するような感覚を覚えた。

(い..いきそう...)

思わず、口元に手を当てて息を呑み込んだ

…………………
大西 直紀29歳、独身。

外資系の製薬会社に勤めるMR。

同年代の若者には手に届かないような年収があり、背も高く、顔立ちもいい。

そして彼は会社の派遣社員や、営業先の病院のスタッフ、女性医師なんかから、とにかく評判がいい。

見た目が良いだけじゃなくて、喋りも上手。気がきく。

だから、彼はとにかくモテた。


自分から誘わなくても、彼が1人でいると自然と異性の方から話しかけてくる。

そして、相手は好意を抱き、やがてそれは恋に似た感情へと変わる事が多かった。

それは、彼にとっては真に望んでいる事ではなかったが、副次的な意味で彼の欲望を満たすことになった。


彼自身の嗜好

それは恋人や旦那がいる女。そんな女に、自分の事を好きだと言わせること。それも、行為の最中に。

直紀は自分が歪んでいると分かっていた。
ただ、それはどうしようも無かった。

ーーーー

直紀はその日も、得意先の病院にいた。

当直の医師のアポイントメントが16時に取れたので、病院の待合室で待っているが、まだ声は掛かりそうも無い。


「はあ…まだか…」

独り言を言って時計を見る。
16時半を回ったところだった。


もうかれこれ、1時間近くこの病院にいて、ここに座っている。

そういう事はこの仕事においてはごく当たり前の事だったが、目当ての医師にはどうしても今日話しをしたかった。

だからずっとここでこうして、待っている。


(大丈夫…かな…)

少し心配になった。
医師が自分との約束自体を覚えているかどうかという事。

もう一度時計を見た。

(声、掛けようか..)

そう思ったところで、若い病院スタッフが駆け寄ってきた。

「大西くん。」


病院スタッフの美希。

事務や総務の仕事を担当していて、直紀のようなMRなんかの業者対応を受け持っている。

灰色の、ストライプが入ったジャケットを着ていてぱたぱたと駆寄る。

「美希ちゃん....」

彼女とは知らない仲では無い。
一度、飲みに行った事があった。だが、身体の関係は無い。

「待った? ごめん!」


美希は両手を合わせた。

直紀は彼女の身体を眺め、その服装やスタイルを何気なくチェックした。

(ふぅん..)

それは直紀がいつも自然な行為としてしているもので、美希を特別に思っている訳では無かった。

それでも彼女の美貌は目を惹く。
スラッとした背丈に腰回りが細い。

彼女は自分のような病院回りのMRにも評判が良いことは知っていた。


「先生、やっぱりダメだって…。別の用事が入っちゃって…」

美希はすまなさそうな顔をした。

「ああ…そうか…やっぱりね。」


ふうっと、ため息が自然に出た。

そして、立ち上がる。


「いいよ。また、出直すから。 でも…」


直紀がそこで言葉を止めると、美希が不思議そうな不安そうな顔を見せた。
次いで直紀の発する言葉を待つ。


「美希ちゃん、前もこんなだったの覚えてる?」

直紀は冗談ぽく非難めいた視線を投げた。

「美希ちゃんが大丈夫だって言うから…」


1時間程前、ダメそうだったら今日は辞めておく、と彼女に話したのを、美希が「大丈夫」と言って安心したことを言っていた。

美希はまた、すまなさそうな表情をするした。

「ごめん..」

「本っ当に悪いと思ってるの」

「だから、お詫びの印に、また飲みに行くのって…どう?」


美希が直紀に近づいて小さく囁いた。


「これ?」

直紀が右手をクイっと上げて、飲むような仕草を見せる。

「うん、それ」

「私ね..」

「また大西君と飲みたかったんだー。」


美希が頬をやや赤らめて言う。

「んーー..」

「いいよ。」

直紀が軽快に切り出した。
そして、美希に向き合って話す。

「じゃ、どこで待ち合わせしよう。」


直紀は機嫌を取り戻したように表情を変え、そう返事した。


-------

22時

もう、かれこれ、2時間近く飲んでいた。

直紀も美希も飲みのペースはゆったりとしたもので、互いに杯を勧める訳でも無く、気になることを会話しながらちびちびと飲んで居た。

「なあ、美希ちゃん。」


直紀が少し気だるげに声をかける。

「何?」

美希がグラスを手に持ちながら反応した。

「そろそろ、帰ろっか。」


直紀がスマホの画面を見ながらそう言って、美希の方を見た。

「えーー...もう?」


美希が困ったような表情を見せ、少しぶりっ子風に装う。

「だって..もう、ね?」


直紀がスマホの画面、時刻表示の部分を見せた。

「うー..」

美希がそれを見て、何か言いたそうにしたが、結局は何も言わないで黙った。

そそくさ、とテーブルの上を片付けて後は直紀に従った。


「あー..酔っ払った」

美希がそう言って、直紀の横を歩いた。

そして店を出て、歩道をとぼとぼと歩く。

その間、2人、何も言わない。

「.......」

長い沈黙が続いた後、美希が口火を切った。

「ねえ!」

「大西君!」


突然の美希の声に直紀が反応して振り返る。

「何..? 美希ちゃん。」


驚いたように、その端正な顔が少し緊張感を持った。

美希が直紀を見つめていて、そして最初の内はパクパクと唇を何度か開く。

「わ..」

「私のこと...」

「嫌い?」


美希が道路の真ん中に立ち止まり、直紀の方を見ていた。


「...........」

「嫌いじゃ...ないけど...」


2歩ほど近寄った。


「...誘ったり....しないの?」


美希は小さな身体を震わせて言う。

直紀は半歩前に歩いた。

「.....だって...」

「美希ちゃん。彼氏...いるよね。」


美希の目がびくっと反応した。
右手が少し上がる。

それは美希が動揺した時の癖で、その手は右耳後ろの方へ。

美希は頭の中で何かを想像し、そして少し俯いて肯定する。

「ぅ....ぅん..」

「だ....だって..」

そして、直紀を見つめていた視線を下にそらした。

「だからーー.......ね。」

直紀がほらね、という感じで美希と同じように手をあげた。

彼女には興味が無い、という風。
最初は冷たそうな感じで、そしてしばらくして真面目な顔になり、最後は優しい表情になった。

「でもーーーーーー」

「俺で..いいの?」


また半歩前に進む。
美希は唇を噛み締めた。


「俺みたいな....男でいいんだったら....」

「喜んで!....だけど.....」


直紀が美希を見つめた。
美希の顔の緊張が緩む。

ふぅっと息を吐いて、そして吸った。


美希が、ほとんど分からないほどに、僅かに頷き、またパクパクと唇を動かした。

「いいの?」

「ね..」

美希の質問に答えるかのように、直紀が両手を左右に広げて脇を開けた。

「......うん...」

直紀から小さくその声を聞くと、美希が小柄な身体を直紀の胸に預けた。


直紀の腕が彼女の身体を包み、締め付ける。


「ぁぁ.....ぁ.....」

「大西...君、大西君!」


美希が顎を上げて、直紀を見上げた。

そこには端正な直紀の顎があり、その向こうには薄い唇があった。


「キス....キスしたい....」


美希が唇を無防備に晒して言う。


「ね....お願い....」


美希が唇を僅かに開けた。


「だめ。まだね...」


直紀はそう言うと、彼女の唇にそっと触れた。

上唇をなぞり、先端をつつく。


「ふっ.....ぁ.....」


美希は一瞬、身体がぞくっと震えたような感じになり、身体の力が抜けた。

そして少し放心状態になった美希の腕を掴んで直紀が歩き出した。


「やだ...意地悪い。」


美希はつまらなさそうにして、だが嬉しそうに彼に身体を預けた。

そしてそのまま歩いて行った。



その2はこちら


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